登り窯の場合も窯出しのあとはうつわの底に付けたりあるいは重ね焼をした見込みに残った目を取って砥石をあてたり、中に積もった灰を洗い流したり、薪に近いところにあったものはやはり炭素の膜が張っている場合もあるのでこれを剥がしたりという作業があります。 今回の窯は最後の強還元が効いて全てのものは炭素の膜で覆われて出て来たのでこれを剥がさなければなりません。 これがなかなか大変な作業で軽く水洗いで取れる部分もあるのですがいくらがんばってもなかなか取りきれない部分も少なくないのです。 今日は日差しはあったもののひどく寒い日で風も吹いていました。 そんな中での水仕事はなんともたまらない気になります。 軍手をしてたわしでいくらごしごし擦ってもなかなか取れはしないので半分程やってとうとう嫌になりここ数年もっぱら須恵器を焼いている友人の清水善行さんに電話して相談しました。 しばらく雨ざらしにしておくとか灰汁に浸けるとかお湯で炊くとか何かぼくの知らないいいやり方やコツがあるのではないかという気がしたのです。 彼が言うには確かにこの膜の問題は厄介なことで、数年雨ざらしにしても取れないそうで、擦るのもたわしくらいでは無理なので荒手のスポンジに細い砂を付けて擦るとのこと。 そんなことをすれば土肌も自然釉も傷だらけにならないかという気がするのですがそうでもしないととても取れないしそうやっても取れない部分は取れないと言います。 むしろ焼く時になるべく膜が張らないようなやり方を工夫しているとのことでした。 確かに今回のぼくの燻べ方は度の過ぎたものでした。 これは次に生かすしかないので今回のものは信楽の原土を漉した時に残った砂を軍手で力いっぱい擦り付けて剥がしました。 たわしよりは余程力も入るし細い部分にも行き届いてはかどるもののやはり取れない部分はどうにも取れません。 冷たい水に手がかじかんで痺れて感覚が無くなっているので破れた軍手を丸めて掴んで擦り付けてはいるものの気が付けばそれさえ破れてしまって指が直接当たって血が出たりしてもわからない。 ひとつひとつ時間をかけて仕上げながら洗って板に並べたものを手に取ろうとするとどういうわけかぴったり板にくっついて取れないのでいったい何がおこったのかと思ったらしっかり凍りついて固まっていたのです。 どうにか出来る限りのことをしてそれでも取れない分は試しにいくつかづつを灰の灰汁に漬け込んだり重曹で炊いて明日まで置いたりしてみることにしました。 数年前に東京の作陶家、吉田明さんのミニ窯の本を見て湯呑が4つか5つ程入る極く小さな穴窯を作り繰り返し何度も焼いて須恵器は実験していて焼成技法としてはそれなりの目処は立っていたのですが、その窯はどうしてもそのままで1000度程までしか温度が上がらず最後はヘアドライヤーの送風で強制的に酸素を送り込んでやはりかなり細かくした薪を激しく燃やして温度を上げていました。 それが嫌でなんとか自然の対流で焼ける最小限のものをと考えたのが今回の窯だったのですが、初窯も肝心の焼き上がりはなかなか満足の行くものでした。 結果は膜剥がしの作業などをもう少し根気よくやってからまたここで紹介したいと思っています。 清水さんのように数か月の仕事を一回の窯に掛けていてはなかなか実験もしにくいでしょうが自家の窯は轆轤すれば数時間の仕事で埋まるほどのものなので、次回もまた近いうちに焼き方をかえて試してみたいと思います。 自分でも驚くのですが窯を作りはじめてからでさえひと月と掛からないで初窯を焚いたのです。 午前中に窯から出した燠は全く火鉢の炭のようにしっかり火が起きて、夕方に玄関のたたきに持って入りかじかんだ手を温め、網を出してトーストを焼きました。 日付も変わった7日の今になってもまだまだ家を暖かくしてくれています。
by slipware
| 2008-12-07 01:21
| 窯のこと
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